主なポイント:
- NOAAは7月までにエルニーニョが形成される確率を82%、強度が強い可能性を57%と予測
- フィリピンでは2023~2024年のエルニーニョで1050億円(約1.6兆円超)の農作物被害、過去最高を記録
- アジア各国の中央銀行は食料インフレリスクの高まりから高金利維持を迫られる
主なポイント:

7月までに発生確率82%とされる超エルニーニョ現象が、インドからインドネシアに至るアジア全域の農作物に壊滅的な打撃を与え、中東情勢の緊迫化によるエネルギー供給混乱に加え、インフレ圧力をさらに悪化させる恐れがある。
「気温が重要な閾値を突破しつつあり、影響は生鮮野菜にとどまらず、穀物、豆類、油糧種子、さらには動物性タンパク質の供給にまで及んでいる」と、HSBCのインド担当エコノミスト、プラセンジット・バンダリ氏は指摘する。
NOAA気候予測センターは、9月までにエルニーニョが強いまたは非常に強い強度に達する確率を57%と推定している。フィリピンでは2023~2024年のエルニーニョにより、農業損失が577億8000万ペソ(約1050億円)に達し、近年で過去最高を記録した。前回の同等規模の現象となった2015年には、世界供給の約85%を占めるインドネシアとマレーシアのパーム油収量が5~10%減少し、粗パーム油価格は数年ぶりの高値に上昇した。
エルニーニョによる作物へのストレスと中東の供給リスクによるエネルギーコスト上昇が重なり、アジア経済にとってはスタグフレーション的なシナリオが現実味を帯びる。ジャカルタからニューデリーに至るまで、各国中央銀行は成長が鈍化しても高金利を維持せざるを得なくなる可能性が高い。
インドネシア、マレーシア、フィリピンが最大の影響に直面
エルニーニョ現象時には干ばつと高温が通常増幅される東南アジアで、その影響が最も深刻になるとみられている(Nikkei Asia報道)。マレーシアの天然資源・環境持続可能性相アーサー・ジョセフ・クルップ氏は、政府は需要管理策と水の割当制度を準備していると述べた。インドネシアの林業相ラジャ・ジュリ・アントニ氏は、当局が地下水位を監視しており、警戒基準を下回った場合には人工降雨を実施すると表明。フィリピンの農業長官ローレル氏は、農業従事者の収入安定化に向け、人工降雨、太陽光発電灌漑システム、作付時期の調整、作物多様化プログラムを展開していると述べた。
インド、熱波と農作物被害に備える
インド気象局は5月の予報更新で、6月の熱波発生確率が上昇し、公衆衛生、水供給、電力消費に影響を及ぼす可能性があると警告した。バンダリ氏は、影響が野菜にとどまらず、穀物、豆類、油糧種子などの主食にまで拡大し、卵や肉の供給にも支障が出ていると指摘する。海水温の上昇は魚類資源を脅かし、主要魚種の死滅や伝統的な漁場からの移動を引き起こし、燃料費高騰にすでに苦しむ漁業従事者の困難をさらに悪化させている。インド農業研究所は、リスク軽減のため、より多くの農家がパイプライン給水や耐熱性作物品種を採用していると述べた。
市場への影響
投資家にとっての最大のリスクは、食料主導のインフレがアジア中央銀行にタカ派的な姿勢を維持させることだ。インドネシア中央銀行(BI)、インド準備銀行(RBI)、フィリピン中央銀行(BSP)はいずれも、先進国の中央銀行が利下げを開始しても高金利を維持するよう圧力に直面している。農業商品先物(パーム油、米、小麦、砂糖)は上昇圧力を受ける可能性が高い。インドネシアルピア、インドルピー、フィリピンペソ、マレーシアリンギットなどのアジア通貨は、食料輸入額の増加による貿易収支の悪化から下落する可能性がある。前回の同等規模のエルニーニョとなった2015年には、FAOのデータによると、同年後半に世界の米価が12%上昇した。フォーチュン誌は、今回のエルニーニョのタイミングがエネルギー不足、肥料供給の制約、持続的なインフレなどの世界的な経済課題と重なり、発展途上のアジア全域で長期にわたる生活費危機のリスクを増幅させていると指摘している。
本記事は情報提供のみを目的としており、投資助言を構成するものではありません。